【大橋秀行】勝敗を超えた感動 ダウンを奪うも敗れた井岡 衰えなし 再戦を期待

WBA世界スーパーフライ級6位の井岡一翔(36=志成)は、約10カ月ぶりとなる因縁の試合で惜しくも敗れ、世界王座の奪還は叶いませんでした。昨年7月の初対戦で判定に敗れていた無敗の同級王者フェルナンド・マルティネス(33=アルゼンチン)との再戦で、結果は0-3の判定負け。試合の10回には見事な左フックでダウンを奪いましたが、その後は競り負けてしまいました。過去の世界戦の再戦で3戦全勝だった記録は崩れ、リベンジは果たせませんでした。また、世界王座奪取の国内最年長記録更新もなりませんでした。
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これこそがボクシングだと感じる息をのむような戦いでした。特に足を止めてお互いが打ち合った最終ラウンドは象徴的で、両選手共にスタミナを使い果たし、ダメージを受けつつも自分の全てを出し切りました。試合終了と同時に思わず拍手してしまうような、勝敗を超えた素晴らしい感動をお届けしました。
再戦に向けて、お互いをしっかりと研究していたことがわかります。マルティネスは、初戦で苦しめられた井岡のボディーブローを警戒し、前回ほど激しい打ち合いは避けました。一方で井岡は、王者の連打を見事にウィービングやダッキングでかわし、初戦ほど打ち込まれることはありませんでした。
10回での井岡のダウンは、まさに見事なカウンターでした。劣勢を打開するため、相打ち覚悟での一撃が功を奏しました。この一発で試合が決まると思いましたが、マルティネスも強かったです。ダウンを喫したものの、全体的に高いガードと柔軟な動きでのディフェンスが優れていました。
予想外だったのは、マルティネスの左ジャブでした。井岡が得意とする中間距離でジャブの突き合いを許し、打ち負けるシーンが多く見られました。7ポイントもの差をつけたジャッジは、王者のジャブを評価したのでしょう。それでも敗れた井岡に衰えは見られません。3度目の対決をぜひ見たいと思います。次回こそは井岡が勝つと信じています。(元WBA、WBC世界ミニマム級王者)