【陸上】新たな肩書きの重圧、失われかけた“楽しむ”心…久保凛が日本記録を更新するまでの道のり
久保凛(17歳、東大阪大敬愛高校)が1分59秒52の日本新記録で2連覇を達成しました。昨年7月に自身が記録した日本記録を0秒41上回りました。9月に行われる世界選手権東京大会の参加標準記録(1分59秒00)には達せず、今大会での内定は持ち越しとなりましたが、世界ランキングでの代表入りに大きく前進しました。出場が決まれば、高校生の女子個人種目としては、1999年のセビリヤ大会5000メートル代表に選ばれた藤永佳子選手以来、26年ぶりとなります。高校3年生の期待の星が、世界舞台へと羽ばたきます。 ◇ ◇ ◇久保は電光掲示板のタイムを見て、少し悔しそうな表情を見せました。日本新記録を達成したものの、目標としていた世界選手権の参加標準記録には0秒52届かず、「悔しいタイムになった」と言葉を漏らしました。しかし、その表情は一瞬でした。すぐに顔を上げ、「楽しくレースができたので、満足しています」としっかりとした声で語りました。レースを楽しむ心を持つことができたことが、大きな成長だったのです。彼女は高校1年生ながらにして23年全国高校総体を制覇しました。高校2年時には日本選手権で初優勝し、日本女子として初めての1分台を記録しました。気づけば「あのサッカー選手の久保建英のいとこ」という紹介ではなく、「日本記録保持者」と呼ばれるようになりました。「肩書きはあまり気にならなかったけど、それだけに『絶対に勝ちたい』『負けたくない』という思いがあった。日本記録を更新できて、たくさん注目してもらえて嬉しい」と語りました。デビュー当時は充実感がありましたが、3年生になると、それが重圧へと変わっていきました。注目を集めることが増え、試合後には10分以上もサインに応じることも。それだけに「必ず記録を出さなければ」と気持ちが引き締まり、自分の記録を超えられない日々が続きました。5月の木南記念では2位となり、国内大会800メートルの連勝も「13」でストップ。レース後には涙を流し、自分がタイムに縛られていたことに気づきました。「心がいっぱいいっぱいになると、走れないと分かりました」と久保は言います。今回は「楽しむ」という決意でスタートラインに立ちました。恐れることなく、号砲直後から積極的に前へ出て、1度もトップを譲らずに駆け抜けました。国立競技場にどよめきが走り、1年ぶりに日本記録を更新しました。「楽しく走れた。ようやく1年ぶりに納得のいくレースをすることができて、本当に嬉しくてたまりません」と明るく振り返りました。ゴール直後は悔しそうだった表情も、取材エリアでは晴々としており、報道陣に「皆さんもぜひ800メートルを体験してみてください」と笑顔で勧める場面もありました。今回の大会では内定は得られませんでしたが、世界ランキングでは日本人トップとなり、代表入りはほぼ確実です。「東京で開催されるのでワクワクします。出場できたら、入賞を目指したい」と、1年前の記録を上回り、初の世界舞台を心待ちにしています。【藤塚大輔】◆久保凛(くぼ・りん)2008年(平成20)1月20日生まれ、和歌山・有田川町出身。小学1年生でサッカーを始め、串本JFCでプレー。高学年時に地元の駅伝大会で区間新記録を達成、中学3年で陸上競技を開始し、全国中学校体育大会800メートル優勝。23年に東大阪大敬愛高校に進学し、全国高校総体2連覇を達成。サッカー日本代表MF久保建英はいとこ。憧れの選手は田中希実選手。身長167センチ。--【写真特集&まとめ】久保凛、新星フロレス、田中希実ら登場/陸上日本選手権第1日--