連続写真で注目選手を紹介する企画「解体新書」。今回は、開幕から安定感抜群の投球を見せている西武の今井達也投手(27)に焦点を当てます。多くの名投手を育てたフォーム矯正のプロフェッショナル、小谷正勝氏(80=日刊スポーツ客員評論家)が分析しました。 ◇ ◇ ◇ 西武今井は現時点で、私にとっては日本球界でNo.1の投手です。投球フォームには多様性があり、絶対的な正解はありません。これまでは解析を行ってこなかったのですが、今季の素晴らしい投球を拝見し、「初めて解析するなら彼だ」と感じました。 拝見した連続写真は、あまり足を上げないパターンと足を高く上げたパターンの2種類で、どちらも全11コマ。まったく非の打ち所がないように感じました。 特に注目すべき部分は、動作の序盤です。(3)では左肩が内側に入り、これが「壁」を作っています。 これは「方向付け」とも言いますが、このフォームでボールをリリースすると、打者は真っ直ぐが内側にくると錯覚します。しかし今井は、外角にも投げられ、さらにスライダーも鋭く曲げます。打者にとっては大きな混乱を招くでしょう。 「大したものだな」と思った点は(4)です。普通の投手なら、(3)で左肩が内側に入ると(4)では体が開いてしまいます。この時点で体が正面を向いてしまい、右打者のインハイにボールを抜けさせる原因になります。しかし今井は、我慢しながら軸の移動をしっかりと行っています。技術的に非常に難しく、言葉で言っても簡単にできるものではありません。おそらく、自分の中で何らかのコツをつかんでいるのでしょう。 (5)では左足に注目しました。通常は「ポンッ」と地面に接触してしまうものですが、足の裏や指先まで意識が届いており、ここでもしっかりと我慢できています。 コーチとしての経験から、ブルペンで投球を捕手寄りから見るときは、球筋よりも着地直前に足の裏が見えるかどうかを確認していました。今井はおそらく、捕手から見た場合、左足の裏が少し上がっているように見えるはずです。足が着地するまで左肩が開かず、そこからひねりの動作が入るため、リストが効果的に働きます。 (3)~(5)に感銘を受けましたが、その後の流れも素晴らしいものでした。(6)では捕手側に体が行きすぎず推進力を止め、軸の移動も我慢できています。バランスが良く、体の中心に軸があるように見えます。(7)では胸をしっかりと張ることができています。これができないと、リストは利かなくなります。物事というのは1つ欠ければ次がうまくいかなくなるものですが、全ての動きに意味があります。 (8)を見れば、両膝がしっかり回転しています。しっかり回ることで、軸足(右足)のかかとの離れも遅れます。軸足のかかとの離れが遅れることで、ボールをしっかりと打てる良循環が生まれています。 よく「体を開くな」とか「体を突っ込むな」と言われますが、投手は突っ込んだり、開かないとボールを投げられません。要するに、タイミングが重要であり、うまく噛み合っているのです。 あまり足を上げていない方は159キロで、足を高く上げた方は150キロだったと聞きましたが、両フォームを比較した際に指摘するような大きな変化はありませんでした。クイック気味に投げた方がテイクバックがコンパクトになり、コントロールはしやすくなります。特に出力を上げる際に、強く意識しているはずです。 まとめると今井は、足の上げ方に関係なく左肩を内側に少し入れ、「壁」を作っています。この形でボールを制球できていることが特異で、素晴らしい能力です。普通の投手なら(4)~(5)で体が余計に開いたり、軸の移動がうまくいかなくなるのですが、全ての力をうまくまとめて、強いインパクトを作っています。体が強く、かつ器用だからできる芸当です。「今井流」と言える独自のスタイルを築き上げたと評してもいいでしょう。(日刊スポーツ客員評論家)