2026年2月6日に開幕予定のミラノ・コルティナ冬季五輪までの残り日数が6月1日で250日となりました。フィギュアスケート界では7月1日に新シーズンがスタートし、五輪に向けた1年が始まります。元世界チャンピオンであり、2018年平昌銀メダル、2022年北京銅メダルの実績を持つ宇野昌磨(27)が取材に応じ、世界選手権で2連覇中のイリア・マリニン(20=米国)や日本のエース、鍵山優真(22=オリエンタルバイオ/中京大)の魅力について語ってくれました。【取材・構成=松本航】
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宇野さんは昨シーズン限りで競技を引退し、今シーズンは元選手の視点から解説を担当しています。プレ五輪シーズンを経て、現時点で注目されているのがマリニン選手。彼は6種類の4回転ジャンプをすべて完成させており、これには唯一成功したアクセルも含まれます。
宇野さん 身体能力が極端に高い選手が、理にかなったジャンプを跳んだ結果、マリニン選手のような存在が生まれたのだと思います。力任せで跳ぶ選手が多い中、彼は必要な技術を持っている。簡単に言えば、生まれながらにして優れたジャンプを持っていると感じます。多くの人が難しいと感じることを、彼は簡単に、そしてスムーズにできるのです。
4月に日本を訪れたマリニンは、京都で木下アカデミーの選手たちと合同練習を行いました。彼の4回転トーループジャンプ後に氷にできる穴の小ささに驚いたコーチや選手たちの声が届いています。そこで、宇野さんに競技者の視点から解説していただきました。
宇野さん フィギュアスケートでは再現性が重要です。ジャンプは練習を積めばコンパクトになり、スピードを抑えて良い形となります。結果として、氷面にできる穴も小さくなります。力が強く入ると大きい穴になります。たとえば、膝を曲げて真っ直ぐ伸ばせば上がりますが、膝が横に曲がると、スピードを止める力になってしまいます。穴の話を聞いて、「彼は力を使わずに回転軸をうまく取っているから、簡単そうに跳べるのだろう」と思いました。
世界選手権で2位に入ったのは20歳のシャイドロフ(カザフスタン)。トリプルアクセルから3連続ジャンプを経て4回転サルコーを跳ぶ技を見せました。
宇野さん 身体能力のある選手たちがマリニン選手のジャンプを研究すると、彼らの跳び方も徐々に似てきます。シャイドロフ選手を見てもその可能性を感じました。今後、マリニン選手に匹敵するようなジャンパーが現れるかもしれません。
五輪まであと250日となりますが、今シーズン苦しんだ鍵山選手にも、とても特別な魅力があると強調します。
宇野さん 優真選手は最初のポーズから最後の一瞬まで途切れることなく、美しくジャンプを決めます。彼の演技中の張り詰めた緊張感は、彼自身をより引き立てます。もちろん緊張はあるでしょうが、観客を魅了し、感動させる力があります。マリニン選手が観る人に「やばい。すごい」と思わせるのに対し、優真選手は「美しいものを見た。感動した」と思わせる。それがフィギュアスケートの競技として、そして芸術としての魅力です。
○…プロスケーターとしても活躍する宇野さんは、自身初プロデュースのアイスショー「Ice Brave」を立ち上げます。本田真凜(23)や、競技者時代に師事したステファン・ランビエル(40)などのゲストとともに、過去に滑った演目を中心にお届けします。愛知公演(6月14~15日、愛・地球博記念公園アイススケート場)、福岡公演(同21~22日、オーヴィジョンアイスアリーナ福岡)、新潟公演(7月12~13日、MGC三菱ガス化学アイスアリーナ)で計9公演が予定されています。