6日目の結びの一番でマナー違反 元嘉風の中村親方の熱い思い「大相撲への侮辱行為ですよ」

大相撲夏場所6日目の16日、会場となる両国国技館で残念な出来事があった。結びの一番、豊昇龍-玉鷲戦。制限時間いっぱいとなり、39代木村庄之助が「手をついて」と声を張ると、場内は静寂に包まれた。誰もが土俵に集中するその時、向正面のマス席から「ハッケヨイ!」と野次にも似た声が飛んだ。大事な場面だったが、一部観客がつられてクスクス笑い出した。それでも両者は集中を途切れさせることなく立ち合い、豊昇龍が勝った。NHKラジオで解説を務めていた中村親方(元関脇嘉風)は、放送中に指摘した。「最高潮の雰囲気になって館内が静まり返っている時にお客さんからの『ハッケヨイ』、これは力士に敬意がないですね。こういうのはやめてほしいですね」この発言はその後、X(旧ツイッター)で拡散され、好角家に支持された。一夜明けた7日目の17日、中村親方に事情を聴いた。「昨日のことですけど…」と切り出すと、それだけで中村親方は察してくれた。-放送中にあの指摘をするのは、勇気が必要だったのではないですか「全然」-どういう考えで指摘されたのでしょうか「もう、冷静さを失っていました。自分は元力士ですけど、相撲が大好き、見るのも大好きなんです。今、見ることに幸せを感じます。ラジオで解説をしていて、なぜ冷静さを失ったかというと…。制限時間いっぱいの、待ったなしの感じ、場内がシーンとなって、土俵に気持ちが入り込んでいたんです。土俵に吸い込まれていました。それが全部、ぶち壊しになりました」
-相撲ファンは、親方の考えを支持していると思います「コロナ禍を経験して、無観客開催になりました。お客さんを入れてからも最初は声援がダメになり、それが解除されて、あらためてお客さんの声援で力士のパフォーマンスが上がることがわかりました。力士のモチベーションは、お客さんが作っているものでもあります。あのような場面は、正面や向正面で解説している時に初めて起きたことでした。これは、力士に対しても、観戦に来た人にも敬意を欠く行為だと思います。その後、アナウンサーの声が全然耳に入らない状態になりました」-親方はマナー違反を指摘した後「すみません、僕はそんなこと言える立場ではないんですけれども」とフォローされていました「頭に血が上っていたのですが、次第に冷静になって、そう言いました。実はあのあと、エゴサしたんです」-観客批判のようにとらえられたら本意ではないですもんね「協会が変なふうに思われなきゃいいなと思いました。でも、まぎれもなく本音です。配慮を欠く行為に、酔っ払っていたからとかは関係ない。大相撲への侮辱行為ですよ。それは間違っていないと思います。ぜひやめてほしいです」-私もそのお考えに同意します「大好きなものを盗られたような感じです。芸術を壊されたような、ドミノを並べてきて、最後に倒されたような感じです。フレンチの前菜からすべておいしかったのに、最後のメインでソースがかかっていない、そんな感じになりました」大相撲には「相撲競技観戦契約約款」があり、日本相撲協会のウェブサイトには「観戦マナー」についての記述もある。それでも、親方が放送中に判断して、踏み込んで発言するのは簡単でない。どうしても当たり障りのない発言になりがちだが、中村親方の正義感はそれを許さなかった。【佐々木一郎】