【ダブル解説】里崎智也&田村藤夫が中日岡林勇希の走塁と守備の判断に迫る 初回の攻防の明暗

日刊スポーツ評論家の里崎智也氏(48)と田村藤夫氏(65)による「ダブル解説」の3回目です。両氏は共に捕手出身で、それぞれの視点から同じ試合を解説します。
【田村藤夫】
開幕戦のピッチャー同士の対決は、ロースコアになることが予想されていました。そのため、試合の流れを決定づけるのは初回の攻撃だと心得ているはずです。それを踏まえて、中日は初回の1死二塁の場面で、上林の右前打で岡林が本塁に帰れなかったのが非常に悔やまれる点でした。
冷静に振り返ると、1死二塁でカウント1ボールの時、上林はやや引っかける形で右方向を意識したスウィングでした。強いゴロではなくある程度緩い打球でしたが、コースが良く、中野が追いつけず、右翼の森下が捕球するまでの時間が稼げるものでした。
二塁走者の岡林は、リード幅を広げた状態で、打球が右方向に転がるのを確認し、岡林のスピードならばセーフになる可能性が高かったでしょう。
三塁を回るところでバランスを崩しましたが、私の眼には、それでもほぼセーフになる打球だったように見えました。したがって、岡林にはさらに打球判断を磨くべき余地があると感じました。もし打球が強烈なゴロやライナー性なら判断も変わってくるかもしれませんが、この場面の一打が勝敗を分けたと言えるでしょう。
また、その裏の守りでは1死から中野が二塁打を放ちましたが、打った瞬間にレフトの鵜飼の動きが気になりました。私にはセンターの岡林に任せたい動きに見えました。ただし、あそこでしっかり打球にチャージしてほしかったところです。
最終的に鵜飼が処理しましたが、最初から全力でチャージしていれば二塁は際どかったかもしれません。センターの岡林からは回り込んで右足で踏ん張って二塁に送球しなければならなかったでしょう。鵜飼が大きく体勢をひねらず送球できたことも考慮すると、結果は二塁打になったかもしれませんが、初回のチャンスをつぶしただけに、もっとアグレッシブさが欲しかったです。
エース対決といえども、試合の立ち上がりは最大のチャンスです。そこで確実に1点を奪う走塁ができるか、走者に先の塁を与えない激しいチャージができるか。その小さな差が1点として現れます。とりわけ中日はこのような僅差の試合をものにする戦いが続いています。余計に、ワンプレーの精度を高める必要性を感じました。(日刊スポーツ評論家)
【里崎智也】
村上が素晴らしいピッチングで阪神が快勝したと見えるかもしれませんが、私の眼には初回の両チームの攻防、この試合に限定すれば一瞬の判断の差が現れたと思います。
中日は初回1死二塁、上林が一・二塁間を破るヒット。岡林はホームを狙いますが、完全にアウトのタイミングでした。岡林は三塁を回った時に躓いています。回したサードコーチの判断はもちろん正解ですが、躓いた岡林自身もここでアウトと判断すべきでした。
まだ1死という状況、主軸への打席が回るという状況、そして岡林自身が自らの足での判断をしなければなりません。一方、上林は一塁でストップしており、彼もまた岡林の走塁と森下の返球が視野に入っているはずです。それならば、一塁大山がカットする可能性を意識しながら二塁を狙うべきです。
これが偽装の動きとなり、岡林の走塁を助ける形になれば最善の判断です。たとえ岡林がアウトになっても、もしも二塁に進んでいればまだチャンスは残ったわけです。森下の返球が良かったという表面的な話だけではありません。
その裏、阪神は1死二塁から森下のセンター前ヒットで中野が生還しています。ここでもセンターの岡林は森下が打った瞬間に1歩2歩後退してから前進しています。中野はその動きを見て楽々ホームインしました。
私は岡林を責めたいわけではありませんが、このシーンでも打った瞬間に思わず後退したことで中野が走塁で得たアドバンテージがあります。逆に、1歩目を前に踏み出す判断ができれば、あそこまで余裕で三塁を回ることはできなかったのではないでしょうか。少なくとも私の眼にはそう映りました。
決定的だったのは6回の2死三塁から佐藤輝明のダメ押しタイムリーの場面です。2ボールになった時点で、中日のバッテリーは四球やむなしという気持ちを持っていたと考えます。それが3球目で空振りを奪いフルカウントとなり、欲が出たのではないかと思います。
最後は外角まっすぐがストライクゾーンでしたが、佐藤輝はバットを軽く当てて左中間を抜けました。フルカウントからでも、2ボールの時の四球やむなしの心持ちを失わずにもう少し広いゾーンで攻めれば、あの2点目はどうなったかわかりませんでした。まだ粘りを見せられたと思います。
私は元捕手のため、試合中の野手や走者の動きを同時に見る習性があります。その視点から言わせてもらえば、この試合では両チームの一瞬の判断の良し悪しが勝敗を分けたと感じています。(日刊スポーツ評論家)