【井上尚弥独占手記】対戦相手を挑発しない理由 ボクシングを親御さんが「やらせたい」競技に

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【ラスベガス(米ネバダ州)4日(日本時間5日)=藤中栄二】ボクシング4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(32=大橋)が、WBA世界同級1位ラモン・カルデナス(29=米国)を8回0分45秒、TKOで撃破した。聖地ラスベガスのビッグ会場となるT-モバイルアリーナでメインイベンターを務め、世界戦KO勝利を歴代最多の「23」とし、4団体統一王者として歴代タイの4度目防衛に成功。区切りのデビュー30連勝を飾った世界注目の「モンスター」が本紙に手記を寄せた。   ◇   ◇   ◇約4年ぶりのラスベガスは本当に最高の舞台になりました。T-モバイルアリーナのリングから見た景色、ボクシングの本場でこれだけ多くの方が集まってくれたことに感動しました。このリングに立てたのはパウンド・フォー・パウンド(PFP=階級を超越した最強ボクサー)の上位にいたことが大きいと思っています。5位以内は自分以外、重量級の世界王者たちが並びます。そこに軽量級の自分が入っていることは誇りです。重量級と比較されても色あせないKOシーンや試合内容を見せてきた証拠だと思っています。PFPはテクニックがあるだけで認められるランキングではないと感じます。今の自分のスタイルがラスベガス、米国ファン好みの試合なのだろうと想像しています。「ここぞ」というところで、いかに試合を盛り上げることができるか。もちろん勝負の世界。盛り上げることを考えて戦うわけではないですが、そういう部分も兼ね備えて認められるもの。それを自分が自然とできていることが大きいと思っています。

重量級と遜色ない報酬や契約を結んでいることも軽量級の価値を上げていると自負しています。しっかりと結果を残せばMLB、NBAなど米国で人気の他競技と変わらない、いや結果次第ではそれ以上の対価が得られるという競技に変えられることができていると思っています。プロを目指すキッズたちが「こうなりたい」と思えるような位置までようやく到達してきたのかなと。ボクシングは大けがをするリスクも高い。決して甘い気持ちではできないですが、親御さんがボクシングをスポーツとして認め、習わせたいという競技にできているのかなという思いです。自分が試合前に対戦相手を挑発したり、あおったりする発言をしないのはなぜか? もちろん挑発されたらイラっとしますが、自分からはやりません。それは公の場に出て、殴り合ってけんかして…、それを見た親御さんがボクシングをやらせたいと思うのかと。小学生のうちから英才教育し、格闘技の中でもボクシングをやらせたいと思えるスポーツ競技になってきたのは本当に良いことです。自分がプロデビューした時は「具志堅(用高)さんの記録を超す」とボクシング界に残っている記録を追い抜くことが目標でした。もしデビュー当時の自分がPFP1位になりたいと言ったら鼻で笑われ、PFPって何?と言われていたかもしれません。それが今、自分が2階級で4団体統一し、PFP1位となり、デビューした選手たち、キッズたちが「PFP1位になりたい」「4団体統一したい」と言う時代になりました。自分は誰も行ったこともない領域に進むことのやりがいはすごくあります。上り詰められるところまで上り詰めたいです。それが日本のボクシング界のためになると信じています。今年3月の年間表彰式で、中谷潤人選手に「1年後、東京ドームでボクシングを盛り上げましょう」と伝えました。国内外のファンが求めている戦い、両者が望んでいる試合です。本人不在のところで名前を出すより、2人そろって正式な場で発言することが試合実現に向けて走りだすと思ったからです。盛り上がりも違いましたね。しかし、そこに到達するまでの道のりには高い壁があります。

1年後の約束なんて、お互いに100%確約されていないのは事実です。それでも周りが期待する、注目する試合だからこそ進めていかなくてはいけないです。この勝者がその後の日本のボクシング界を引っ張っていくはず。それが井上尚弥だ、というところを証明したいです。約4年ぶりのラスベガスの試合に向け、常に自分が練習に集中できるように協力してくださった大橋会長をはじめ、大橋ジムの全選手、スタッフのみなさまにも感謝の気持ちでいっぱいです。もちろん公私においてサポートしてくれたトレーナーの父をはじめ、家族にも感謝します。本当にありがとうございました!(4団体統一スーパーバンタム級王者・井上尚弥)◆井上の世界戦記録 通算KO数の23KOはジョー・ルイス(米国)を抜き歴代トップ。5位以内の現役は井上とゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)の2人のみだ。連勝は25となり、フリオ・セサール・チャベス(メキシコ)らと並ぶ歴代3位。ルイス、フロイド・メイウェザー(米国)が26連勝で1位。通算勝利は25勝でオスカー・デラホーヤ(米国)らと並ぶ5位。チャベスが31勝で1位。オマール・ナルバエス(アルゼンチン)が28勝で2位。ルイス、メイウェザーが26勝で3位にいる。国内ではこの全項目で1位。18年10月のパヤノ戦でマークした70秒(1分10秒)は日本男子歴代1位の国内最短KO記録。◆パウンド・フォー・パウンド(PFP) 米老舗専門誌「ザ・リング」が選定する、異なる階級の選手を体重差がなかったとして比較した現役最強王者を示す称号。1940~60年代にミドル級などで活躍した「拳聖」シュガー・レイ・ロビンソン(米国)をたたえる造語として誕生◆井上尚弥(いのうえ・なおや) 1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。父真吾氏の影響で小学1年から競技開始。高校時代にアマ7冠。12年7月にプロ転向。14年6月、6戦目でWBC世界ライトフライ級王座を奪取。14年12月、8戦目でWBO世界スーパーフライ級王座を獲得し2階級制覇。18年5月、WBA世界バンタム級王座を獲得し3階級制覇。19年5月にIBF同級王座、同年11月、WBSS同級制覇。22年12月、史上9人目の4団体統一王者に。23年7月にWBC、WBO世界スーパーバンタム級王座を獲得して4階級制覇。同12月に史上2人目となる2階級での4団体統一に成功。身長164・5センチの右ボクサーファイター。井上尚弥まさかのダウンも8回TKO勝利 11連続KOで世界新 聖地ラスベガスで30連勝/ライブ詳細

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