「アドマイヤ」がアメリカの競馬界を驚かせる-。アメリカ三冠レースの第一戦、ケンタッキーダービー(G1、ダート2000メートル、チャーチルダウンズ)が4日の朝(現地時間3日)にスタートします。「スポーツで最も偉大な2分間」と言われるレースには、日本から2頭の馬が参戦。アドマイヤデイトナ(牡、加藤征)は昨年3着だったフォーエバーヤングと同じく、UAEダービーの優勝からアメリカへ向かいます。大阪・北新地でクラブを経営する近藤旬子オーナーは、亡き夫の近藤利一氏の想いを胸に、この大舞台に挑みます。【取材・構成=桑原幹久、深田雄智】
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アドマイヤデイトナは、追加登録から参戦したUAEダービーで鼻差で逃げ切りました。写真判定の間、黒のドレスを着た近藤旬子オーナーは、外ラチ沿いで固唾を飲みました。
「ゴールの瞬間は2着だと思っていましたが、周囲から『勝ってるよ』と言われ、ぬか喜びになってしまうかと不安でした。掲示板に1着と出た瞬間、みんなで喜びました」
レース直後の会見で、優先出走権を得てケンタッキーダービーへの参戦を即座に表明しました。
「周囲の方や加藤(征)先生と、もし優勝できたら行こうと事前に決めていました。アドマイヤとしては初のアメリカ遠征で、正直ケンタッキーダービーがどれほど重要なレースかあまり理解していませんでしたが、とても貴重なレースに参加できることを聞き、本当にわくわくしています」
アドマイヤの冠馬が海外のG1レースを制したのは、2019年の香港マイルでのアドマイヤマーズ以来です。ドバイに限れば、2007年のドバイデューティフリー(現ターフ)のアドマイヤムーン以来18年ぶりです。
「ムーンの時は映像でしか見たことがなく、マーズではコロナの影響で直前にドバイに行けなかったので、ドバイに挑戦をしたい気持ちがありました。今回のチャンスがあまりに早く巡ってきたので、信じられない気持ちです」
馬主としてのキャリアは5年目。アドマイヤベガ、アドマイヤドンなど数々の名馬を所有した大馬主、故・近藤利一氏との出会いがきっかけでした。
「競馬には縁がなかったのですが、会長(故・近藤利一氏)との出会いをきっかけに、競馬場によく通うようになりました。会長が亡くなった後、私は彼の後を継ぎ馬主となり、以前から会長と親しかった『大魔神』こと佐々木主浩さんを紹介していただき、妻の榎本加奈子さんや、アドマイヤジュピタに関係する友道先生とも親しくなれたことで、今の私があります」
故・利一氏が続けていた石清水八幡宮や、馬頭観音へのお参り、出走馬の観戦、セレクトセール上場馬300頭近くの下見など、馬主としての全てを引き継いでいます。
「馬主業で迷った時は、会長ならどうするだろうと考えてから行動しています。競馬は楽しく、馬は美しく愛らしい存在です。今は夢中になっています(笑)」
デイトナは、2022年のセレクトセール当歳部門で6600万円(税抜き)で落札しました。
「アドマイヤルプス(父ヘニーヒューズ)が活躍し、ダートで活躍する馬を探していて、ドレフォン産駒に興味を持ち、とても欲しかったんです。決め手は顔です(笑)。馬体のトモ(後躯部)の良し悪しは分からないので、見た目のバランスが良く、かわいくてかっこいい顔かどうかを重視しています。デイトナはイケメンだと思います(笑)」
3戦目の未勝利戦で、今回もケンタッキーダービーに出走するルクソールカフェと激しい競り合いになり、レコードタイムでの鼻差2着に敗れました。
「あの鼻差が本当に悔しかったので、今度は逆転したいですね」
アメリカ三冠レースの全戦に登録済みで、石清水八幡宮のお守りを携え、日本代表として海を渡ります。
「当初はドレスで行こうと思っていましたが、日本代表として、お着物で行こうと決意しました。夢のようです。もし勝てば、会長も私も驚くことでしょう(笑)。アドマイヤの馬は昔から活躍していますが、私になってからも、多くの応援をいただければと思います」
◆近藤旬子(こんどう・じゅんこ) アドマイヤで知られる合建株式会社の代表取締役会長だった故・近藤利一氏の妻。利一氏が2019年11月に死去し、相続馬主となる。自身の名義での馬主資格は2020年7月に取得し、同月の函館記念をアドマイヤジャスタで制しグレードレース初勝利を達成。昨年の朝日杯FSをアドマイヤズームで勝利しG1初制覇。今年の福島牝馬Sをアドマイヤマツリで制しました。大阪・北新地の「Priv.Ayaka」のオーナーでもあります。
◆アメリカ三冠レース ケンタッキーダービー、2冠目のプリークネスS(G1、ダート1900メートル、17日=ピムリコ競馬場)、3冠目のベルモントS(G1、6月7日、ベルモントパーク競馬場が改修中のため、サラトガ競馬場での距離は2400メートル→2000メートル)で構成されます。イギリスや日本とは異なり、1冠目から中1週、中2週のわずか6週間という非常にハードなスケジュール。2018年のジャスティファイまで13頭の三冠馬が誕生しています。